好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
 

 時計の長い針は、何度も周回を終えた。
 最近は「働き方改革」として社員の残業削減を推進している。そのおかげで私以外に残業をしている人はいなかった。誰もいなくなった室内は、シンと静まり返っている。
 
「お腹すいたよー!」

 なんとか資料作成を終えた安心感からか、心の声は口から逃げていく。
 
 吐き出しでもしないと、心がしんどくなってしまう。

 この仕事も、すぐに引き受けないで、佐伯さんにきちんと注意するのが指導係としての役目だったのかもしれない。
 自分の行動に、頭の中で反省会が行われた。

 私はいつもそうだ。その場では言えないまま、あの時こうすればよかったと後から反省点が続々と出てくる。
 
 どんどん心が暗くなっていく中、足音と共に声が降ってきた。 
 
「まだやってんのか?」

 低く冷たい声が耳に届いて、だらけきっていた背筋がピンと伸びた。声の主が瞬時に分かったからだ。

「ち、千歳さん⁉ どうしたんですか?」
「普段、ついてないのに電気ついてたから」
「す、すみません! 残業になってしまって……」

 反射的に立ち上がり頭を下げた。

 千歳さんとは、仕事のやり取りだけで、あまり日常会話をしたこともない。そんな千歳さんに突然話しかけられて、体が縮こまり緊張してしまう。

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