好きが故に欺いて〜罠に嵌められた私を待ち受ける甘い愛〜
2、デートではなく偵察です
同じ部署でありながら、仕事上の会話しかしたことがない。
予想外の行動と優しい声かけに心に動揺が広がっていく。
私は外見だけで判断してしまっていたのかもしれない。
そう思ったが、苦手意識はそう簡単には消えてくれない。
何を話したらいいのか分からず、会話が途切れた。
……非常に気まずい。
不思議な沈黙が続くと、その気まづさに耐え切れなくなり、急いで帰り支度をした。
パソコンの電源を切り、慌ててかばんをもつ。
「……では、し、失礼しますっ!」
軽くお辞儀をしてその場を立ち去ろうとした時だった。
「ちょっと、待て!」
静寂が広がる場に似合わないような声の大きさで呼び止められる。
「香坂⁉︎ それって……!」
千歳さんから初めて聞くような大きな声だった。
驚きながらも彼の目を見ると、視線が私の持っている鞄に向けられていた。
視線をゆっくり追っていくと、鞄につけていたキーホルダーだった。
ゆらりと揺れるキーホルダーの正体は「うさぽん」の愛称で親しまれているキャラクター。うさぽんは、ウサギをモチーフにしたぶさかわな部類なのだが、絶大な人気を維持している。