そしてまた歩きだそう
出会い
いつからだろう。朝起きて制服に着替えなくなったのは。最後に外に出たのは一体いつだ。僕はなんのために──。

「七絃ー、ご飯できたよ」

下の階から聞こえてくる母の声。重たい体をベットから起こして階段をおりる。

「いただきます」

僕の暗く小さい声が静かに鳴った。今日言葉を発したのはこれで3回目くらいか。

「そうだ七絃。もう4月なんだし1日30分は散歩してこない?」

ご飯を食べてる僕になんともないように言う母。僕もそろそろ外に出ようとは思っていた。でも、外に出ることを考えるだけで気が重い。

「…いい」

母の気持ちは痛いほどわかる。でも僕には無理だ。


「いいから行ってきな。すぐそこの公園ふらっとして戻っといで」

母はさっきより強めの声でそう言う。学校に行くわけでもない。ただ着替えて靴を履いて外を歩くだけ。

「…ん」

聞こえるか聞こえないかの声で言った。まだ気は重いけど不登校を攻めないでくれている母には、逆らえない。普段外に出てみろなんて言わない母がこんなに言うなんてすごく珍しい。
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