そしてまた歩きだそう
涙を堪えながら千佳ちゃんが話す内容に驚くが、これまでの全てに辻褄があるからかすんなり受け入れられた。

「結果的に七絃くんもおばさんも傷つけた。本当にごめんなさい」

千佳ちゃんが、ついに大粒の涙を零し謝る。僕も母も静かに俯くことしか出来なかった。

「…子どもの心は弱くて脆い。もっと私たち大人がケアするべきだったわ。千佳ちゃんのことも七絃のことも」

沈黙を破ったのは母だ。母も涙が溢れ声も震えていたが、力強くそう言った。

「あたしは20歳です。子どもじゃない。あたしだって七絃くんのこともっと守るべきだった」

声を粗げて言う千佳ちゃんを、母は真剣な面持ちで見つめている。僕はそんな二人の会話を聴きながらただただ下を向いていた。

「いいえ。たとえ20歳でも、5年経った今も紫絃のことで後悔し続けてくれている千佳ちゃんをケアする義務はあると思うの」

「…あたしは、大丈夫です。あたしなんかより、七絃くんとおばさんの方が辛い」

「どっちの方が辛いとかはないと思うな。人それぞれ辛いことはあるし、他の人にとっては痛くも痒くもないことでも自分にとっては一生治らない痛みになることもあるのよ」

母の言葉に僕もはっと顔を上げる。その通り過ぎて驚いた。
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