凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
もう一度、会いたい
「マーケティング本部から異動してきました、朝倉と申します。宜しくお願いします」
四月から店舗開発本部に配属され、初日の朝礼での挨拶を終えた。ここでは主に新店舗の出店交渉や候補地の選定、出店後のサポート業務を行っている。
入社以来ずっとマーケティング部で商品開発の基となる市場調査分析をするチームにいた。ロンドンでの仕事もその延長線で任されたプロジェクトだったから、今回店舗運営に携わることになって、まるで転職でもした気分だ。
まったく部署が違うから知っている人もほとんどいないし、気のせいか距離をとられているような気もする。
「不安そうな顔」
小声で言う同期入社の加賀美くんが、コーヒーの香りを漂わせながらふらっと現れた。私のデスクに寄りかかり、カップに口をつけると熱そうに顔を歪めている。
彼とは今回の異動で同じ部署に配属された。
「そりゃ不安だよ。元のマーケティング部に戻されるとばかり思ってたんだもん。せっかく未奈子もいたのに」
未奈子は、去年マーケティング部に異動した一番仲のいい同期。彼女とはロンドンに行っている間も頻繁に連絡を取り合っていた。
私が元いたチームに異動が決まったと連絡がきたときは、日本に戻ったら一緒に仕事ができるとふたりで盛り上がっていたのに、まさか私の方が他の部署へいくことになるなんて思ってもいなかった。
「ねえ、私なんか浮いてる?」
それにしても出社してから凄く視線を感じる気がした。気にしないように振舞ってはいたものの、どうにも気になって仕方がなく、こっそりと加賀美くんに尋ねる。