凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「ロンドン帰りの新参者、なんてどうやったって浮くだろ」


 しかし、返ってきたぶっきらぼうな言い回しに聞く相手を間違えたと後悔した。フォローという言葉を知らない彼は、こういう人だった。


「さぞ仕事ができる人なんだろうな、ってイメージ?」


 続けて、わざとプレッシャーをかけるように意地悪く笑った彼を見て、思わず「やめて」と睨みつけていた。

 私は入社五年目で海外プロジェクトのチームに入れられた。確かに、うちの会社としては珍しいことらしい。でも、単に私の実力ということではないのが、気が引けるところ。

 行くはずだった先輩の妊娠が直前で発覚して、土壇場で同じ仕事をしていた中で留学経験のある私に話がおりてきた、というだけだった。


「知ってるくせに」
「分かってるって、冗談だよ」


 そう言いながら、ふらっと斜め向かいの自席に戻る加賀美くんを目で追いながら、頬杖をつく。

 実際、加賀美くんの言うように勘違いしている人はどれだけいるんだろう。不意に目が合うと、みんな慌てたように顔を逸らす。

 自分がどんな人物になっているかは知らないけれど、噂だけが先行してひとり歩きしてしまうのも嫌なものだ。


「朝倉さん。あと、加賀美くんも」


 参った。大きなため息をついたところで、課長に呼ばれた。手招きする課長の前にふたりで並ぶと、デスクの上には三つの資料が広げられていた。

 今、新店舗開発に力を入れているうちの会社は、次々に店舗をオープンさせている。ゆえに新店舗の数と担当者の数が比例しておらず、異動したばかりの私たちにも担当をもってほしいという話だった。



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