凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 * * *


【夜、アズーロで食べよ】


 異動からちょうど一週間が経ったころ。担当店舗の打ち合わせに行く先輩に同行して帰る営業車の中で、スマホに未奈子からのメッセージが通知された。


 アズーロは、会社近くのお洒落なイタリアン。

 地下にある隠れ家的な雰囲気で、席数も少ないから落ち着いて話せる穴場。入社二年目のときに見つけてから未奈子と会うときの定番になっていた。

 信号待ちの間に、了解、とスタンプだけ押して車を走らせる。メッセージのやり取りは頻繁にしていたけれど、未奈子の部署とはビルが違うから会うのは二年ぶりだ。


「静菜」


 先にお店へ入っていた未奈子が、角のテーブルから小さく手を振っていた。


「ごめん、お待たせ」
「ううん。先、適当に頼んじゃった」


 首のあたりまでしかないさらりとした黒髪を耳にかけながら、アンニュイな顔立ちでニッと笑う。お互い「久しぶり!」なんてはしゃぐタイプではないから、まるで昨日も会っていたみたいに合流した。


「では、静菜の帰還に。乾杯!」
「ありがとう」


 グラスがコツンとぶつかり、透き通るような白ワインが小さく揺れた。

 カプレーゼ、鹿肉のロースト、マルゲリータピザ。適当に、なんて言っていたわりに、テーブルに運ばれてきた料理はどれも私の好きなものばかりだ。

 思わず口元が緩んだ。


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