凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 未奈子と別れ、先月引っ越したばかりのオートロック式マンションに到着する。

 住宅街の一角にあり、最寄りの駅からは徒歩七、八分というところ。会社は二駅隣りで通いやすく、環境も静かでとても気に入っている。

 七階建ての三階で角にあるのが私の部屋。

 近くのコンビニを曲がると、ちょうど下から電気がついているのが見えた。


「ただいま」


 リビングの扉を開けると、今やベッドとして使われている広いソファの上に菜乃花が座っていた。フットネイルをしながら顔も上げずに「おかえり」とだけ言う。

 すると、十二畳ほどの室内に充満する甘い匂いを感じた。


「うわ、なにこの匂い」


 コートを脱ぎながら、思わず鼻をつまむ。お酒を飲んできたせいか、独特の匂いが余計に気持ち悪く、たまらずベランダの窓を全開にした。


「ちょっとなにしたの」
「アロマディフューザー。なんか、ココナッツ系のやつ」


 菜乃花は、近くにあったアロマオイルのパッケージを持ち上げながら平然と言う。

 それにしても甘い。甘いというより甘ったるくて、できるだけ口から呼吸した。


「ココナッツとか好きだったっけ」


 鼻をつまんだまま、机に置かれたアロマオイルに手をのばす。いかにも南国系というパッケージに顔を歪めた。


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