凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
私はコーヒーを飲みながら、タブレットで今月の売り上げを確認する。開店して約三ヶ月、グラフは右肩上がりと好調で社内からの評判も上場だった。
店内を覗くと、今日もスーツケースを持ったお客さんばかりが来店している。客層は、会社員から家族連れまでと幅広い。
他の店舗は主にオフィス街や住宅街にあり、決まった客層で成り立っているけれど、ここはリピーター客が少ない。良くも悪くも、空港内の動向に左右されやすいのが難点だった。
マーケティング部にいた頃は数字やデータとばかりにらめっこしていたから、現場でのそんな気づきがなんだかとても新鮮だった。
忙しそうなスタッフを見て、返却棚にたまったコーヒーカップを片付ける。こうしていると、大学時代に地元の店舗でアルバイトをしていた頃を思い出した。
「キャラメルモカひとつ、お願いします」
当時から好きだったメニュー。
お客さんの列に混ざりレジに並んで注文すると、カウンターの奥で背を向けていた店長が驚いたように振り返った。
「なんだ、言ってくれれば作ったのに」
小声でひっそりと言われ、思わず笑ってしまった。
「たまには私も貢献しないと」
財布を手にレジを通り、邪魔にならないよう壁の方へ寄ると、ちょうど満席になったイートインスペースが見渡せた。コーヒーを片手に談笑する姿が広がっている。自動ドアが開くたび、スタッフの明るい声が飛んで気持ちがよかった。
そのとき、ふと入店してきた人物に目が留まる。
驚いて、頭が真っ白になった。
この店舗の担当に志願した日、あわよくば会えるのではないかと淡い期待を抱いていた相手。密かに探していたパイロットのあの人が、スーツケースを横に置いてレジに並んだのを見てしまった。
心臓の鼓動が大きく胸を打っている。突然の再会に心の準備ができていなくて、声をかけたい自分と勇気が出ない自分との間で揺れて足がすくんだ。
頼んでいたキャラメルモカが出来上がっても、ただただ彼の姿を目で追った。相手は私のことになんて気づくわけもなく、コーヒーを受け取ってさっさと出ていってしまった。