凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「もしよければ、向こうでお食事とかどうですか?」
緊張で心臓がどうにかなりそうになる。
顔見知り程度の相手をなんの理由もなく食事に誘うなんて、好意があると言っているようなものだった。
意表を突かれて固まっている彼を見ながら、それでもたたみかけるように「今日の仕事が」とタブレットを起動した。
「夕方には終わるので、十七時には」
そして、必死にスケジュール表をたどりながら顔を上げた瞬間、なぜか、ふっと吹き出すように笑われた。
「すみません。なんだか可愛くて、つい」
彼が笑顔で口にした不意打ちの言葉に、単純な私はすぐ真に受けてしまった。
嬉しくて口元がニヤつくのを必死で押されていると、
「せっかくのお誘いなんですが、今日はそのまま羽田に戻ってくることになってるんです」
盛り上がっていた気持ちが一気に落とされた。
空港内のアナウンスが私たちの間を通り抜ける。国内線のフライトなんだから、その日のうちに帰ってくるなんてよく考えればわかることだったのに。勝手にひとりで盛り上がって、おめでたすぎると顔をあげられなかった。
「あのー」
そこへ未奈子が控えめに声を出しながら立ち上がった。
「すみません、横から。私、朝倉の同期の矢沢と申します」
突然かしこまったように挨拶を始める。
私と違って社交的な彼女は誰に対しても物おじしない。初めての場所にもすんなり飛び込んでいけてしまうタイプだ。だからこういうときは、頼りになるようで、なにをしでかすか読めなくてちょっとヒヤヒヤする。
「実は、私たち前々から航空業界にとても興味がありまして」
そんなこと初めて聞きました。
ニヤニヤと話し出す未奈子に目配せされ、なにかを企んでいるのが分かった。