凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 私たちに気を遣っているのか、それとも彼女からの一方的な矢印だからなのか。全然分からない。

 悶々としながら、ひとまず会話に合わせて笑ったり、相槌を打ったりしてみたけれど、心の中ではふたりが気になって仕方がなかった。

 私は気を紛らわせるように勢いよくビールを流し込んだ。


「おいおいおい、あんま強くないんだから」


 加賀美くんに小声で静止されながら、私はグラスを置けずにまた口をつける。


「分かってるよ」


 お酒は好きでよく飲むけれどあまり強くはないから、いつも二杯くらいが限界だ。

 でも今日は酔わないといられない。目の前の光景を見せつけられながら、平常心ではいられなかった。

 呆れたように「まったく」とこぼす加賀美くんは、我関せずといった様子でしっぽりと飲んでいる。誰かと話そうともせず、あんなに来たがっていたわりには楽しんでいなさそうだ。正直どうして来たんだろうと不思議でならなかった。

 
「ふぅ……」


 トイレの鏡に映る自分と向かい合う。

 二杯目のお酒を飲み干しても、肝心な高科さんとはまだちゃんと話せていない。そもそも莉央さんが彼を離さないから、できる話もできなかった。

 もう私の目元が限界だ。だんだんと重くなってきた瞼がひどい顔を作っている。調子に乗って勢いよく飲み過ぎてしまったせいだ。

 ポーチからライトローズのリップを取り出し、少しはマシに見えるだろうかと薄く唇をなぞった。


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