凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 すると、だれかが後ろから入ってきた。鏡越しに目が合い、思わず「あ」と声が漏れそうになったのは、莉央さんがいたからだ。

 慌てて退散しようとしたら、彼女がスッと隣に並んで立った。


「分かってますよね」


 メイク直しを始めながら、一切こちらを見ずに真顔で言う。はっきりとした綺麗な顔立ちが余計に強い圧を醸し出す。真っ赤なリップを塗りながら鏡に近づく彼女が、牽制するようにこちらをちらっと見た。

 つまりは、手を出すなよ。そういうことだ。

 私は静かにテーブルへ戻った。

 なにも知らない高科さんは、未奈子たちと楽しそうに談笑している。私もその中に加わって相槌を打ってみるけれど、どうにも集中できず、なんとなく彼の方を見られなくなっていた。


「そういえば、昨日のフライト大変だったみたいだね」


 莉央さんは戻ってくるなり、自然と高科さんを自分の方へと引き戻した。


「ああ、強風でなかなか着陸できなかったから」
「キャプテン褒めてたよ。冷静に状況判断して、さすがだったって」


 そんなふたりの共通の話題には入り込む隙なんてない。


「あ、朝倉さんは普段どういうお仕事をなさってるんですか?」


 たまに会話がとぎれたタイミングで、すかさず高科さんがこちらに話題をふってくれた。


「私は店舗でミーティングをしたりとか」


 でも、一言そう言いかけると、

「そうだ。ボブズといえば、最近新作出ましたよね」

 私のターンは終わっていて、また莉央さんが新たな話題を作り出した。こちらに与えられるのはたった一行分の会話だけ。

 さっきからずっと、この繰り返しのような気がする。


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