凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
他愛もない会話。自然と浮かぶ笑み。
しかし、不意に見た目の前の光景が一気にすべてを消しさった。
空港内に響くアナウンスも、周りの喧騒も、なにひとつ耳には入ってこない。時が止まったように足が動かず、その場から動けなくなった。
前から近づいてくるふたりのパイロット。
そのうち同じ年くらいの男性には見覚えがある。
清潔感のある黒髪。彫刻で彫ったようにはっきり凹凸のある顔立ち。ガラス玉みたいに綺麗な瞳。二重瞼の大きな目が、笑うたびに目尻にシワを作ってくしゃっとなる。
高科先輩――。
高校の頃の記憶が一気に蘇り、交わした会話や過ごした時間がついこの前のことのように思い出される。私の初恋の人。大人になっても、あの頃の面影は残ったままだった。
スローモーションになってそばを通り過ぎていく感覚があった。鼓動がゆっくりと大きく脈打つのがわかる。
咄嗟に振り返った私は、
「先輩!」
そう声を出していた。
男性は足取りに迷いを覚えながら、ぎこちなく振り返る。おそらく声をかけられたのが自分なのかどうか、確信が持てていないのだろう。
それもそのはず、ちょうど同じようなタイミングで歩いていた通行人たちも、二、三人迷いながら立ち止まったくらいだ。
でも、私が真っ直ぐに見つめるのは彼だけだった。
「私、……朝倉です」
目があって、恐る恐る小さな声で口にする。
息ってどうやってするんだっけ。
どんな顔をされるだろう。呆気なく突き放されたらどうしよう。いろんな想像が頭の中を巡り、吸い込んだ空気がうまく入っていかなくて、だんだんと息苦しくなってきた。
「ああ、えっと」
優しくて穏やかな、柔らかい声色。
鼓膜をくすぐったく刺激して、顔が熱くなる。昔、いつも聞いていた懐かしい声は、私の耳がよく覚えていた。