凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「朝倉さんはどうしてボブズに?」


 彼の自然な問いかけから、私たちは会話を取り戻した。


「元々大学生のときにアルバイトをしてたんです。当時の店長にこのまま就職しないかって勧められて、それで」


 やりたいことも見つからずにいた私は、四年間続けたボブズでの仕事だけが強みだった。ボブズで働くのは好きだったし、オープニングスタッフとして始めた店舗でバイトリーダーにまでなって、ここで働くのもいいかもしれないと安易に決めてしまった。

 語っていて、なんの面白味もない話になんだか恥ずかしくなる。


「すみません、大した理由なくて」
「そんなことない。ずっとひとつのことを続けるって、それだけでもすごいことだと思うし」


 いつの間にか彼から敬語が抜けていた。会話が砕けていき、だんだんと距離が縮まっていくのを感じた。


「高科さんはどうしてパイロットに?」


 私も同じ質問を返した。


「昔から夢だったんですか?」


 ここぞとばかりに聞いたのは、今なら彼のことを知れるかもしれないと思ったからだ。


「夢なんて大それたものではなかったけど、空は好きだったかな」
「……空?」
「うん。高校のときとか、好きな雲の話ばっかりしてた」


 そのとき、全身の血が引いていく感覚がした。


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