凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「なんかあった?」
垂れ下がったスクリーンをしまおうと手を伸ばしたとき、後ろで片付けをしていた加賀美くんの声で振り返る。コの字型に並んでいた長机を、せっせともとあった位置に動かしながら、ちらりとこちらを見た。
「なにかって?」
「最近、ずっとぼんやりしてるから」
私は、ああ、と苦笑いを浮かべてスクリーンを巻き上げる。
あの日あったことを彼は知らない。言うだけ惨めになるだけだと、口をつぐんでいたからだ。
「あいつと付き合った?」
ぼぅっと使い終わった機材をダンボールにしまいこんでいたら、加賀美くんがテーブルに両手をついて前に立った。
「え?」
「飲み会、ふたりで抜けたろ。あれからちゃんと聞いてなかったから」
もごもごと口ごもらせながら目を逸らされた。
「違うよ、それはない」
沈んだ声で無理やり笑顔を作りながら、たまらず顔をそむけた。
自分で言って、自分の言葉に落ち込んでいる。本当に惨めだ。
あのとき、あのキスをされたとき、一瞬思い出してくれたんじゃないかと自惚れてしまった。でも、今の状況を見たら、なんの意味もなかったのだと痛感する。
ただの気まぐれ。酔った勢い。
危うく桜の丘で待ちぼうけていたあの頃と同じ想いをするところだった。
「……あっそ」
なにかを察したのか、加賀美くんは言葉を飲み込んだような素振りを見せ、それ以上はなにも聞いてこなかった。