凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
最近、夏休みのキャンペーンで忙しく、そのうえ本格的に札幌二号店の開店準備を任された私は毎日のように残業が続いていた。なにかと出張も多くなって、体が悲鳴を上げている。
「ただいま戻りました……」
今日も札幌から夕方の便で戻ったその足で、スーツケースを持ったまま会社に立ち寄った。
「え、今日そのまま直帰じゃねえの」
近くを通りがかった加賀美くんが、ホワイトボードの予定を見ながら不思議そうに言う。本来は空港から直で家に帰る予定だった。しかし、そうも言ってはいられなくて。
「課長が今日中にキャンペーンの報告書あげてくれって。明日の会議で使うんだって」
くたくたになりながらノートパソコン入りの鞄をどんと机に乗せて、これ見よがしにため息をつく。
ただでさえ札幌の開店準備が忙しいというのに、そっちの仕事まで手が回るわけないだろう。そう叫んでやりたい気持ちをぐっとこらえていた。
「お昼まで打ち合わせだったから、飛行機の中でもやってたんだけど……」
「明日の朝来てやれば? その会議午後からでしょ」
「朝からリモートで別の会議が入ってるの」
欠伸まじりにしゃべりながら、パソコンが起動するまでの間ふぅっと目をつぶる。最近はずっとこんな調子で、まったく疲れが取れていなかった。
三日くらい前から同じチームの先輩がふたりもインフルエンザにかかり、まともに機能しているのは私と二年目の女の子だけ。
さすがに、今の仕事量でもいっぱいいっぱいになっている後輩へこれ以上の仕事を振るわけにもいかず、限界でも限界とは言えない状況が続いていた。
先輩たちが復帰して来るまで、あともう少しの辛抱だ。
よしっと気合いを入れ直すように顔を上げた瞬間、頬に冷たいものが触れた。びっくりして肩をすくめたら、「ん」とぶっきらぼうな声とともにエナジードリンクがデスクの上に置かれた。