凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「ただいま!」
「静菜おかえりー……て、ちょっと!」
出迎えてくれたお母さんとは一年ぶりの再会だということも忘れて、挨拶も早々に、一目散に自分の部屋がある二階へ上がった。
海外赴任が決まって、住んでいたマンションを引き払ったとき、荷物は全部ここに押し込んだ。段ボールだらけで、もう物置部屋と化している。
「たしかこの辺に」
段ボールをかき分けて、押入れの奥にしまっていた大きな箱を引っ張り出す。中には当時もらった手紙や写真、プリクラが無造作に入っていて、一瞬本来の目的も忘れて懐かしんでしまった。
でも、底のほうに眠っていた小さな箱を目にしてドキリとする。それだけ他とは別になって、大切に保管されている。中身は今でもよく覚えていた。
一枚の写真と学生服の銀ボタン。
窓を背にして制服姿のふたりが並ぶ。恥ずかしそうに微笑む私の隣には、胸元にピンクの造花を刺して、卒業証書と書かれた筒を手にする高科先輩がいる。不自然にも彼の制服には、上からふたつ目のボタンだけが残っていた。
「懐かしい」
先輩が卒業する日、記念に撮ってもらった思い出の一枚。幸せそうに笑っている当時の私は、これが先輩と会う最後の日になるなんて想像もしていなかった。
会いたいな。
じっと写真を見つめながら、昔の記憶にひたる。
あれは、もう十年も前のはなし――。