凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「あんま無理すんなよ。ひどい顔してる」


 そばに立っていた加賀美くんに呆れたような顔で言われた。

 三十分ほどで定時を迎え、他のチームはみんなそそくさと残業もせずに帰っていく。加賀美くんのチームは無事新店舗がオープンし、今日は打ち上げをするらしい。まだ木曜だというのに元気だと感心してしまう。


「終わった……」


 十八時になり、なんとか報告書をまとめ終わった。残業を一時間でおさめられた自分をほめてやりたい。メールでデータを送った後、一応資料を印刷して課長の机に置いておいた。

 集中したせいか、頭が痛い。目も限界だ。

 こめかみをぐりぐりと押しながら、自分のデスクへと向かう帰り道。


「このデータはなんだ!」


 そこへ怒号が飛んできた。ほとんど人のいなくなった室内に漂う嫌な空気。

 帰る間際に聞きたくはなかった。

 どうやら他のチームの後輩が部長からの大目玉を食らっているようだ。データが合わないだの資料が違うだの、散々怒られた挙句、明日の朝一番に必要なのだとファイルを突き返されていた。

 彼女のチームの人たちは、もうとっくに帰ってしまっている。半分泣きそうな顔でおろおろと人を探している姿が視界に入り、あまりにも可哀そうで見ていられなかった。


「大丈夫?」


 ここで知らん顔して帰れたら、どんなに楽だろうか。

 それができずに結局世話を焼いてしまった。

 一緒に資料を直し始め、もうすぐ十一時半を回ろうとしているところ。後輩は終電ギリギリになり、残りは私が引き受けると先輩面をして先に帰してあげた。

 一応、私は歩いても帰れる。最悪タクシーだって大してかからない。


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