凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
しかし、残った資料の山を見て終わるだろうかと、ひとりになってから一気に不安になった。
ビル内の電気はほとんどの階が消灯していて、私の周りだけが明るくなっている。自動販売機でエナジードリンクを買って、気合いを入れ直した。
「は?」
すると、チームの打ち上げに行っていたはずの加賀美くんがなぜか戻ってきた。
「なにしてんの。まだ報告書? なわけないよな」
「加賀美くんこそ」
「いや、俺は携帯忘れて」
デスクの引き出しを探る彼が、怪訝な顔で覗き込んでくる。私は言いづらいと思いながら、後輩の仕事を引き受けたことを打ち明けたら、
「どこのお人よしだよ」
間髪入れずに怒られた。
想像通りの反応に笑っていたら、加賀美くんがパソコンを持ち出して隣のデスクに座ってきた。私の前から資料をひと束掴み、パラパラとめくり出した。
「いやいやいや、いいって。帰りなよ」
「お前何時までやる気だよ。ふたりでやればすぐ帰れんだろ」
言い方は冷たい。
けれど、相変わらず優しかった。
薬は飲んだものの頭痛は続いている。たしかにひとりでやるには少し時間がかかる量で、私は素直に甘えることにした。