凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「終わったあー」
椅子の背に寄りかかり大きく腕をいっぱいに伸ばす。
「良かった、まだ二時だ」
時計を見て、思ったよりも早く終わったと安堵した。
「まだって……、忙しすぎて感覚バグってんだろ」
「違う違う、絶対朝日見ることになると思ってたから。本当手伝ってくれてありがと。持つべきものは同期だね」
自動販売機の前に立ち、「なにがいい?」と振り返る。しかし返答は返ってこず、彼は不機嫌そうに頬杖をついた。
「お前じゃなかったら手伝うかよ」
なにが気に障ったのか、パソコンを持ってぶつくさと文句を垂れながら横を通りすがる。自分のデスクを片付けて、ちらっとこちらを見た。
「なんか言えよ」
そしてまた、不機嫌そうに続けた。
なんか、と言われても加賀美くんが優しい人なのは知っている。改めて恩着せがましく再確認させなくたっていいのに。
そう思いながら、「同期のよしみってことでしょ?」と、さらっと返した。
口が悪くていつも不機嫌そうにしているから、見た目のイメージが先行して、周りには伝わりづらいけれど。実は人一倍、人の気持ちに敏感なんだ。
「意外と優しいもんねえ、加賀美くんは」
少しからかうように言いながら、自動販売機に小銭を投入する。なににしようかと人差し指を立てて選んでいたら、後ろからドンと衝撃が伝わってきた。