凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「朝倉さん、昨日は本当にすみませんでした」
リモート会議を終え、昼休みになった。
自席で頭を抱えて俯いていたら、真横で可愛らしい声がする。ゆっくり顔を上げると、昨日仕事を手伝ってあげた後輩が深々と頭を下げていた。
結局、加賀美くんとは気まずいまま空気のままタクシーに乗って一緒に帰った。家の前で降りるとき『おつかれ』と一言交わしただけで、一切会話はなかった。
加賀美くんとちらっと目があって、すぐに逸らす。
「大丈夫だよ。資料平気だった?」
そう言って冷静を装った。
「本当にありがとうございました!」
それにしても、とてもよく頭に響く声だ。
顔を歪めながら「それならよかった」と答え、また同じ体勢に戻る。
今日は朝からとにかく体がだるい。頭痛も昨日よりひどくなっているし、外はじりじりと突き刺すような暑さだというのに寒気がする。いよいよこれは危ない予感がする。
朝から『半休で帰ったら?』と心配してくれた上司はいたけれど、どうしても帰りたくはなかった。だって今日は高科さんと一ヶ月ぶりに会える日だから。
何度もリスケして、ようやく落ち着いた予定。これを逃したら次はいつ会えるかわからない。
けれど、この体調で食事になんていけるだろうか。
【会社の前で待ってて。迎えにいく】
スマホの画面を見ると【待ってます】と返したメッセージはまだ未読のままだ。できればドタキャンなんてしたくはないし、薬が効いてくればよくなるかもしれないという淡い期待を抱く。
食欲はないけれど、薬を飲むため無理やりゼリーを流し込み、そのまま机に突っ伏した。