凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 しかし、体調は悪くなる一方だった。

 ようやく定時を迎えて、今日は一番に退勤した。


【ごめんなさい。あまり体調がよくなくて行けません】


 立っているのもやっとの中、エレベーターを待ちながら文章を考える余裕もなくメッセージを打ち込んだ。

 帰ったらすぐに寝よう。今日が金曜日で本当によかった。目を開けているだけで出てくる涙を指でなぞりながら、腰に手を当て大きく息を吐いた。


「昨日はごめん」


 そのとき、突然加賀美くんが隣に現れた。

 今朝から目があうたび、あからさまに避けてきた私は今どんな顔をすればいいのだろうか。


「でも、マジだから」


 囁くように言った彼の言葉に、なんて返したらいいのだろう。

 熱のせいで頭が回らず、正直今はやめてほしいと思いながら余計に頭が痛くなる。


「返事はゆっくりでいい」


 こういう時に限ってエレベーターは満員で、ひとつ見送ることになった。


「てか、ごめん。本当にしんどそうだな。送るよ」
「ううん、大丈夫だよ」


 やっと来たエレベーターはひとり分のスペースだけ残っていた。ふらふらと乗り込んで手を振った私はいつも通りの笑顔を作った。

 扉がしまった途端、糸が切れたように扉へもたれかかる。

 どうにもしんどかった。


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