凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
二階のロビーから続く長いエスカレーター。手すりに体重を預けながら降りていくと、ガラス張りの壁の向こうに黒のベンツが停まっていた。
見覚えのある車。約束の時間よりも少し早いのに、まさかと思いながら目を細めたら、傍には長身の男性が立っていた。
自動ドアを抜け、確かめようと近づいていくけれど、限界が来る。視界が歪んでその場にうずくまった。
ああ、このまま眠ってしまいたい。そう思った。
すぐに背後から走ってくる足音がして、「朝倉」とぶっきらぼうな声が呼ぶ。きっと加賀美くんだ。
「やっぱり駅まで送る……」
そう言いかけた声が聞こえた瞬間、ふわっと温かい手が額に触れた。
つられてぐいっと顔が上を向いた。
「すごい熱だ」
息絶え絶えに呼吸をしながら、涙でにじむ視界の向こうに、なぜか高科さんの顔がある。これは夢だろうか。
「俺が連れて帰りますから」
意識が朦朧とする中で、加賀美くんの声がする。
すると、ふんわりと高科さんの匂いに包まれた気がして、体が宙に浮いたのが分かった。
「ありがとう。でもそれは俺の役目だから」
高科さんの低い声を耳に残し、意識はだんだんと遠くなる。
耳元でトクトクと鳴る鼓動が心地よく聞こえた。