凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
過去の記憶
目を開けたら、クリーム色の明るい天井が見えた。
ふかふかのベッドが体に吸い付くようにフィットして、全身が雲で包まれているような感覚に陥る。
夢か、現実か。ぼんやりとしたまま、左腕の違和感を辿っていくと、手首に点滴に繋がれていた。
どうやら私は病院にいるらしい。
だるかったはずの身体はさっきよりも随分と楽になっているけれど、まだ頭はぼんやりとしている。
少し周りを見回す余裕ができてきて、視線だけ部屋の中を移動する。
殺風景な室内。長いカーテンで覆われた広い窓。誰もいない部屋のど真ん中にクイーンサイズほどのベッドが置かれ、隅にあるハンガーラックには男物の上着がかかっていた。
病院の個室にしては広く、なんだかホテルの一室のような空間だった。
すると、正面の扉が躊躇なく開いた。
「あ、目覚めた? 気分はどう?」
見知らぬ男性が入ってきた。
ワイシャツに黒のパンツ姿の彼は、ベッドの脇に馴れ馴れしく座り、私の手首を持って真剣な顔をした。腕時計を確認しながら脈を測るような素振りを見せる。
たしか会社の前で動けなくなって、誰かに抱えられたところまでは覚えている。後ろから加賀美くんの声がして、でも見えたのは高科さんで――。
それなら、この人は一体だれなのだろうか。
観察するようにじっと見ていたら、「伊織」と開けっぱなしの扉の向こうに彼が叫んだ。
ばたばたと足音が近づいてきて、姿を見せたのは高科さんだった。