凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「よかった」
ホッとしたような笑みを見せ、枕元に座った彼は私の頭を優しくなでる。
「あの」
久しぶりに発した声は、自分でも驚くほど随分とかすれていた。
「……ここは?」
「俺の家だよ。ごめんね、勝手に連れてきて」
何度も何度も優しく髪をなでてくる。一定のリズムが心地よく、だんだんと眠くなってきた。
熱に浮かされているせいか、まだ意識はぼんやりとしていて、自分の状況をあまり現実的にとらえられずに他人事のように受け取る。
「じゃあ、俺行くわ」
「ああ。川瀬、急に悪かったな」
「全然。昔からあんまり人に頼りたがらないお前が必死こいて連絡してきたから、俺は嬉しかったよ」
おもむろに立ち上がったもうひとりの男と親しげに話す会話が聞こえる。
「一応、また明日様子見に来るわ」
「わかった。本当助かる」
私は、川瀬と呼ばれたその男をうつろな目でまじまじとを見つめた。
私に気づいた彼と不意に目が合うと、
「安心して、こう見えても医者だから」
そう言って、ストラップでつながれたネームホルダーを胸ポケットから取り出した。
目の前に突き出された顔写真の横には【川瀬医院 川瀬佑都】と書かれている。
笑うとくっきり凹む笑窪が特徴的な彼は「どうも」と付け加えるように言った。
本当にお医者さんだったんだ。
私はわずかに残っていた気力で小さく頭だけを動かした。