凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
すると、目が合っていた彼の顔色がだんだんと変わっていく。急に驚いた顔をして、高科さんを押し除けて距離を詰めてきた。
「え、朝倉静菜……?」
なぜか私の名前を口にした。
首を傾げながら、はい、と囁いたら、嬉しそうに笑顔を見せた。
「うわあ、懐かしい。俺たち同じ高校だったんだよ。学年は伊織と同じだからふたつ上だけど」
唐突に入ってきた情報。頭の整理が追い付かずにぽかんとする。
「悪い、今言われてもだよな」
そんな私の表情を見てか、一度冷静になったように言う彼はから笑いを浮かべる。
同じ高校で、私のことも知っていると話す彼。
ふたりが部屋を出ていき、ベッドの中に残された私の頭には、その情報だけが強く残っていた。記憶をなくして以来、ほとんどの縁を切ってしまったと告げた高科さんに繋がる二人目の人物だ。
しばらくして高科さんが戻ってきた。また同じように枕元へ座ると、ベッドがぎしっと小さな音を立てて沈んだ。
「悔しいな」
彼が、ぽつりと悲しげに言った。
目が合うと、伏せ目がちに微笑む横顔が見える。
「川瀬の方が、朝倉さんのこと知ってるみたいだ」
子供みたいな顔をして、ふてくされたように言う。
かわいい。思わず、ふふっと笑ってしまった。
「なんで笑うの」
「すみません。でも私は、高科さんのことしか知りませんよ」
布団に口元までうずめながら冗談まじりに笑って返すと、彼は柔らかく笑った。