凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 * * *


 よく晴れた空の下、満開の桜並木の間を通って初めて登校した入学式の日。真新しい制服に着られた生徒たちが、広い体育館に敷き詰められたパイプ椅子に座る。

 右を見ても左を見ても知り合いなんてひとりもいなくて、ずっとそわそわしながら校長からの長い式辞を聞いた。淡々とこなされていく退屈なプログラムも折り返しに入った頃、マイクの前に立つ教頭の口から次の紹介がされる。


『歓迎の言葉。在校生代表、高科伊織(いおり)


 ひとりの男子生徒が壇上へ続く階段を堂々とあがっていった。

 中央の演台に立ったその人は、優しく笑みを浮かべて口を開く。穏やかな声でつむぐ美しい言葉たちは、その場にいた全員を魅了した。

 私は山ほどいる新入生のひとり。彼の視界に一秒でも入れたか分からない。でも、私の目には彼しか映っていなかった。

 モノクロの世界にパッと花が咲いたような、春の彩りを感じる。

 そのとき、私は恋に落ちる瞬間を知った。


 夏が過ぎた頃、廊下の掲示板には【生徒会役員選挙】の貼り紙がはられた。

 外の渡り廊下から見える生徒会室。

 好きな人がいるその場所は、私の憧れでいつも輝いて見えた。

 生徒会長の高科先輩は全校生徒の憧れの的で、私にはあまりにも遠すぎる。

 ほんの少し興味があって、何度か掲示板の前で足を止めたこともあったけれど、あいにく立候補する勇気は持ち合わせていなかった。自分には似合うはずがないと端から諦めていたからだ。

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