凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「あの、川瀬さんはどうして私のこと。多分会ったことは……ないですよね」


 私は、探るように聞いた。


「ないけど、うちの高校で君のこと知らないやつはいないと思うよ」
「いや、そんなことは」
「入学式のときから有名人よ。美人な新入生が入ってきたって、一気に噂が広がったから」


 耳を疑った。

 だれかと勘違いしているのではなかろうかと、別人の話でもされているみたいだ。それほどしっくりこなかった。


「でも朝倉さん、委員も部活も入らなかったでしょ。男連中はみんな話すチャンスうかがってたから、こぞって落ち込んでたよ」


 彼は、懐かしそうに笑った。


「だから生徒会に入った時は驚いた」
「知り合いの先輩にどうしてもって頼まれたので」


 あの頃の私は、やりたいことも好きなことも見つからなかった。どこかに所属するタイミングを失って、私の高校生活はただただ授業をこなすだけの平凡な毎日だった。でも先輩から生徒会に誘われて、高科先輩と出会って、あの日から私のすべてが変わったんだ。


「朝倉さんが入ってからかな、あいつがしょっちゅう生徒会室へ行くようになったの」


 もう十年も前の話に浸っていると、「え?」と声が出た。


「用もないのにわざわざ昼休みにまで顔出して、本当わかりやすいやつだよ」


 心が熱くなった。

 その言葉を真に受けてもいいものだろうかと思いつつ、嬉しくてたまらなくなる。しかし、すぐに彼女の顔がチラついた。


「でも、莉央さんのことを」


 言葉にすると、余計に苦しくなった。

 卒業前に付き合うことになったんだとしたら、きっと私なんてただの後輩でしかない。それなら、彼が生徒会室にいた理由に私は入っていないだろう。


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