凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「あいつが意識を取り戻した後、病室へ行ったらなにかの本を読んでたんだ。それがパイロットを目指すきっかけになったってあいつは言ってたけど、なにか知らない?」


 私は顔を上げ、「本?」と聞き返す。


「事故に遭った時、持ってた鞄の中に入ってたって」


 そして、そう付け加えた川瀬さんの言葉を聞いて一冊の本が思い浮かんだ。

 でも、まさか。私はそんなわけないと思いつつ、ひとつだけあった心当たりが脳裏によぎる。


『夢なんて大それたものではなかったけど、空は好きだったかな』
『入院中の彼に夢だった航空学校を目指すように後押しもした』


 そして思い出した高科さんと莉央さんが言ったそれぞれの言葉。

 今思えば、どこか少し矛盾しているような気がする。


「ひとりで考えてても答えは出ないよ」


 もやもやと眉間にしわを寄せて考えていたら、川瀬さんが困ったように笑う。


「もし、朝倉さんの気持ちが俺の思ってる通りなら、ちゃんと自分の気持ちぶつけてほしいって思う」


 私は彼の言葉を噛み締めるように、ぼうっと一点を見つめた。

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