凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

「明日は仕事?」


 日曜の夜。仕事から帰ってきた彼と夕食を囲む私は、サラダを食べながら頷いた。急に現実へと引き戻される。

 さすがに体調がよくなったら、もうこの家にいられない。恋人でもない私が、いつまでもいてはいけないとブレーキを踏んだ。

 本当なら今日だってこのまま泊まっていいのか分からない。

 でも、あえてそれは聞かなかった。

 もう少しそばにいたいという私のわがまま。

 彼と一緒に過ごす時間がどうしても欲しかったから。


「残念だな」


 そのとき、寂しそうな顔で彼が言った。


「朝倉さんが待ってるって思って、仕事頑張れたのに」


 はにかむ彼の笑った顔に、私は好きだと言いたくなった。

 言葉のひとつひとつが心を刺激してくる。包み隠さず素直な気持ちを伝えてくれる彼は、欲しい言葉をくれる人。

 そこは、昔から変わらなかった。


「これ、返しますね。忘れないうちに」


 私は動揺をごまかすようにしてポケットから合鍵を取り出した。

 なにかあった時にと渡されていた鍵。名残惜しく思いながら、テーブルの上を滑らせて彼の元へと届けた。

 しかし、彼は受け取ろうとしなかった。


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