凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
あと一時間半。キッチンに立ちながら心配で、得意なはずのハンバーグの手順も何度も途中で間違いかけた。
完成した料理にラップをかけ、ソファに座ってぼんやりとテレビを見つめる。二十時を過ぎたというのに連絡ひとつ入ってきていなかった。
スマホの画面を見つめ、高科さんと最後にしたやり取りを見つめる。
事前に苦手なものを聞いたら、一言【ピーマン】とだけ返事が来た。何度思い出しても、かわいくてひとりでにやけてしまう。
高校のとき、子供みたいにピーマンだけ避けていたのを思い出し、そこは昔から変わっていないのだと懐かしかった。
時間だけが刻々と過ぎていく。
ガタガタと風邪で窓ガラスが揺れ、打ち付ける大粒の雨が室内に反響する。テレビの音をかき消すくらいの騒がしさに、孤独を感じた。
不安で、心配で、数えきれないほどのため息をついた。しかし、同時に空腹になったお腹が耐え切れなくなったようにぐぅっと音を出す。
「お腹すいた」
こんなに心配でもお腹はすいてしまうんだ。
なんだか無性に悲しくなった。
台風が過ぎ去り、辺りは一気に静かになった。
もう日付が変わろうとしているのに、いまだ連絡はない。なにかあったのではないかと不安に押しつぶされそうになりながら、何度もネットニュースを更新してみるけれど、速報は入ってきていない。
「お願い、出て……」
ずっと我慢していたけれど、とうとう電話をかけてしまった。
しかし、聞こえたのは彼の声ではなく、機械的なアナウンスの声だった。