凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「えっと、クリスマス……だっけ」
「うん、イブが日曜でしょ。休みが都合つきそうになったから、デートでもどうかなって思ったんだけど、あんまり気乗りしない?」
「ううん、行きたい」
「良かった。とりあえずディナーは良さそうなところ予約しといたから、あとで送るね。他に気になるところあったらそっちでもいいし」
高科さんは、私にはもったいないくらい完璧な彼氏だ。
忙しいのに私との時間をちゃんと考えてくれるし、とても大切にされているのを感じる。
だから余計に言い出せない。
ただでさえ少ない時間をやりくりしている。同じ家に住んでいるからかろうじて会う時間が作れているというのに、ましてや日本とニューヨークで離ればなれになってしまったら、心の距離まで遠くなってしまいそうで怖かった。
「静菜、なんかあった?」
お風呂から上がり寝室に入ると、先にベッドへ入り込んでいた彼が心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうして?」
私もベッドに入り込み、強がってそう返すと「なんとなく」と彼が言った。
「仕事で色々あって、ちょっと疲れちゃったのかも」
「あ、また無理してる? もう倒れるまで無理しちゃ――」
「大丈夫、あれはもうない。反省してます」
冗談ぽく笑う私は、彼の腕に引き寄せられ胸の中へすっぽりと納まった。あたたかくて心地いい。高科さんの匂いがした。
もしニューヨークへ行ったら、電話やメッセージばかりで、こうして温もりを感じることもできなくなってしまうんだ。
どれもこれも転勤の話にばかり結びつけて、眠れなくなった。