凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ

 一週間が経った。

 期限の日が刻々と迫る中、まだ答えは出ていない。高科さんにも話すことができていないまま、時間だけが過ぎていった。

 異動を承諾すれば、四月にはもうニューヨークだ。

 私は迷った挙句、同期ふたりに相談することにした。
 今日はどこかでお酒をのみながら、と言う気分にはなれず、人が少なくなったのを見計らい小さな会議室に呼び出した。


「私、ニューヨーク行きを打診されてる」


 早速、本題を切り出した私を見てふたりが固まった。
 まさかそんな真剣な相談だとは思っていなかったのだろう。

 椅子の背に寄りかかり缶コーヒーを飲んでいた未奈子も、机の上に体重を預けてスマホをいじっていた加賀美くんも、ふたりして顔を見合わせ手元を下げた。

 私はそわそわと歩きながら、ホワイトボードの前を行ったり来たり。「どうしよう」と口にする。

 すると、勢いよく立ち上がった未奈子が突然ガバッと抱きついてきた。


「すごい、おめでとう!」


 驚いて固まる私は、加賀美くんと目を見合わせた。


「だって、静菜夢だったじゃん。海外で働くの」
「そう、なんだけど」
「え、もちろん行くよね?」


 当たり前のように言われ、なんだかすごく後ろめたかった。


「迷ってるんだろ」


 私の心を見透かしたように、加賀美くんが冷静に言った。

 こくりと頷く私に少し残念そうな顔をして離れた未奈子は、力なく椅子に座った。


「そっか、そうだよね。簡単には決められないよね」
「ごめん、喜んでくれたのに」


 純粋な心で祝福してくれた未奈子に申し訳がなかった。

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