凄腕パイロットは12年越しの溢れる深愛を解き放つ
「本当ごめんね、朝早くから」
「ううん。私こそずっと持ったまんまでごめん」
日曜の、クリスマスイブの朝。
週明け、出張に行く未奈子が現地で必要な資料を取りにマンションまで訪ねてきた。エントランスのソファで待っていた彼女に紙袋を手渡すと、突然寂しそうに俯いた。
「静菜がニューヨークに行ったら、こうやって会うこともできなくなるんだね」
途端にしんみりとし始め、こちらにまで伝染してくる。
私はふかふかのソファにわざと勢いよく大袈裟に座る。
「私、行くのやめたの」
できるだけ明るく振舞った。
「え、ちゃんと話し合ったの?」
「ううん、だけど決めた。多分どっちの道を選んでも後悔するとは思うから。だったら、後悔してもいいって思える方を選びたい」
昨日の夜、ぎりぎりまで考えて出した答えだった。
もし海外で働く道を選んで、万が一高科さんを失うことになったら、私はきっと一生この選択をした自分を恨むと思ったから。
「あんだけ背中を押してくれた加賀美くんには、怒られそうだけどね」
そのとき、背後で物音がした。
「なんの話?」
聞きなじみのある声がして振り返ると、高科さんが立っている。彼はもらい物のフルーツを未奈子に渡そうと、私を追いかけてきていた。
「ニューヨークってなに」
とても怖い顔をしている。
まさか、話を聞かれてしまうなんて思ってもいなかった。