略奪☆エルダーボーイ
その後、練習が無事に終わる。
後片付けを済ませ、制服に着替えながら帰り支度を始める。
その最中も黒瀬さんの言葉がグルグルと頭の中をうずまいていた。
冗談だとは言っていたけど・・・熱のこもった言い方が少し引っかかっていた。
冗談であんな風な言い方するかな?
やっぱり謎だ。
「おーい、いーぶーきちゃーん。着替え終わったー?」
扉の外から黒瀬さんが呼ぶ声が聞こえる。
着替えを済ませて荷物を持って外へ出ると、エナメルバックを肩にかけている黒瀬さんが立っていた。
「お、出てきた。一緒に帰ろーぜ。送ってく」
「あ・・・はい、お願いします」
黒瀬さんとは家が近いし・・・わざわざ別々に帰ることもないか。
少し考えた後に返事をして黒瀬さんの隣を歩く。
「まだ2日目だけど、マネージャーの仕事はどう?少しは慣れた?」
「ぼちぼちですかね・・・。ルールとかあやふやなのでそこら辺が不安です」
「ま、2日しか経ってないし、そこんところはゆっくり覚えていきな」
そう言って私の頭をワシャワシャと撫で始める黒瀬さん。
それを片目を閉じながら大人しく撫でられる。
「・・・ホント、黒瀬さんって頭撫でるの好きですよね・・・何回撫でてます?今日」
「前も言ったけど、髪の毛触り心地良いからさ。触りたくなっちゃうんだよ。・・・それに・・・」
「それに?」
「・・・好きな子には、触りたいって思うじゃん?」
目を細めながら愛おしいものを見るかのような目で私を見つめながら爆弾発言をする黒瀬さん。
い、今・・・好きな子って・・・!?
「えっ・・・!?あの・・・!!えっと・・・!!」
どう反応していいか分からず、アタフタとしながら必死に身振り手振りをする。
どうしよう、言葉が出てこない。
「・・・ぷっ。フフフッ」
オロオロとしていると、黒瀬さんが口元を抑えながらクスクスと笑い始めた。
何事かと思い、首を傾げながら黒瀬さんを見る。
「凄い慌てっぷり。冗談のつもりだったんだけどな」
「は、はぁ!?」
「今の反応、可愛かったよ」
私の反応を楽しむかのような発言に、目を丸くする。
そうだよ・・・この人はこうやって嘘かホントかわかんないようなことを言ってからかってくる人だったよ。
焦って損しちゃった。
「・・・もう、そういう冗談はシャレになりませんよ?本気にしちゃう子とかもいますし」
「誰でも言うわけじゃないよ?伊吹ちゃんだから言ったの」
「え・・・それって──」
「──ほら、お家着いたよ」
“それってどういう意味ですか?”そう言おうとしたけど、遮られてしまう。
もう着いたんだ・・・気付かなかった。
「また明日ね、伊吹ちゃん」
「・・・ありがとうございました・・・また明日」
黒瀬さんに手を振りながら、彼の背中を見つめる。
私だから言った・・・か。
黒瀬さんのことだから深い意味は無いんだろうけど・・・。
“・・・好きな子には、触りたいって思うじゃん?”
さっきの言葉が、頭から離れない──。