略奪☆エルダーボーイ
小日向つぐみside



伊吹から初めて相談があると初めて言われたのが、5月の初め。



私の幼なじみである灰田陸に一目惚れした、と言う内容だった。



私は一瞬戸惑った。



だって・・・私も小さい頃から灰田くんのことが好きだったから。



彼はショートカットの子が好きって聞いてから、ずっとショートにしているし。



でも、灰田くんとは“幼なじみ”という今の関係を変えるつもりはない。



そばかすと歯並びの悪いことがコンプレックスで、自分の顔に自信の無い私なんかが灰田くんに好きになってもらえるはずがない。



そう思い、私より美人で肌も綺麗な伊吹が彼を好きというなら、私は身を引こうと思った。



この想いは、彼の名前の呼び方を“陸くん”から“灰田くん”に変えた時から永遠に封じ込めるつもりでいた。



つもりだった・・・はずなのに。



伊吹から相談を受ける度に、チクチクと胸が痛む。



私も彼が好きなのに、という思いが湧き上がってくるのだ。



でも、私はこの想いに蓋をした身・・・そんなこと、考えちゃいけない。



そう思いながら伊吹の相談に乗っていた。



そんな中、今日のお出かけで先輩からの思わせぶりな態度に悩んでる、という相談を受けた。



話を聞くからに、その“くろせ”先輩って人は明らかに伊吹に好意を寄せている。



誤魔化すのはきっと・・・私と同じ理由。



今の関係が変わってしまうことを恐れているからこそ、誤魔化しているんだ。



だけど、それは伊吹には伝えなかった。



伝えたら、私のこの想いまで筒抜けになってしまいそうだから。



それに・・・困っているとは話していたけど、伊吹の反応を見るからにアプローチを受けるのはやぶさかではなさそうだ。



話してる時の表情が、恋する乙女みたいな感じだったし。



もしかして、2人同時に好きになっちゃったり・・・?とか考えてるうちに、かなりの時間が経ってしまった。



カフェを後にして、そろそろ帰ろうかと話している時、さっきまで話題に上がっていた“くろせ”先輩が現れた。



その先輩の目は、伊吹しか見えていないみたいだった。



しかも、伊吹も灰田くんと一緒にいる時より恋してしまって困ってる乙女のような表情でその先輩と会話をしているようだった。



このワンシーンだけ切り取って見れば、なんだかんだ言ってその先輩のことを好いているように見える。



それを見た瞬間、私の中で黒い感情が湧いてきた。



伊吹がこの先輩とくっつけば・・・灰田くんを好きでいることを許されるんじゃないか、と。



考えただけじゃ止まらず、伊吹を置いて1人で帰ってきてしまった。



「・・・ハァ・・・」



家に着いてから自暴自棄になりかけていた。



あんな真似して・・・何考えてるんだろう。



伊吹のことも考えず、自分の感情のままに動いたりして・・・。



自己中心的な行動を取ってしまった自分を責め続ける。



ベットにダイブするように倒れ込み、クッションを抱き締めてため息をつく。



明日・・・伊吹に謝らなきゃ・・・。



それから・・・湧いてきた黒い感情をかき消して・・・伊吹の恋路を応援しなきゃ。



それが・・・自分に自信を持てない、私の務めだから。



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