略奪☆エルダーボーイ
体育館にたどり着き、着替えて準備を始める。
ここ最近ずっと準備のお手伝いをしてきたからもう慣れたものだ。
素早く的確に準備を終え、部員が集まり次第練習が始まる。
いつも通りに味見をしながらドリンクを次々作る。
「あっ、伊吹さん!ちょっといいっすか!?」
「!?・・・どうしたの?」
ボトルを作っている最中、ガラッと扉が開き、灰田くんが姿を現す。
急な灰田くんの登場に、ビクッと肩が震えた。
「先輩がボール踏んで転びましました!!診てもらっていいですか!?」
「!?今行く!!」
作りかけのドリンクを水道場に置き、急いで体育館の中へと入る。
中に入ると、皆に囲まれて座り込んでる部員の姿があった。
取り囲んでいる人達をかき分け、座り込んでる人のそばに駆け寄る。
「見せてください」
「う、うん」
怪我をした部員の目の前にしゃがみこむ。
靴と靴下を脱いでもらい、足を見せてもらう。
足首が少し腫れて変色してる・・・骨が折れてないか心配だな。
「ここに足、乗せてください」
「あぁ」
近くに置いてあった台を足元に置き、足をあげてもらう。
私が作業しやすいようにってのもあるけど、心臓より高い位置に足をあげて痛みを少しでも引かせるようにする。
「ここ、痛いですか?」
「いや、大丈夫・・・」
「・・・ここは?」
「っ・・・痛いね」
先輩の足に触れ、痛みを感じる部分を探していく。
触った感じ、骨には異常無さそうだ。
だけど、ボールを踏んだ拍子に足を捻ったのだろう・・・捻挫をしている。
「捻挫です。動かさないでくださいね、固定します。誰か、アイシング用の氷持ってきてください」
「あ、俺持ってきます」
声をかけると、灰田くんが率先して氷を取りに行ってくれる。
その間に、救急箱の中からテーピングを取り出して足首を固定するために巻き始める。
「キツくないですか?」
「あぁ、大丈夫だよ」
先輩に確認を取りながら、丁寧にかつ素早く足首にテーピングを巻き、固定させる。
「伊吹さーん!氷持ってきました!」
「ありがと、灰田くん」
アイシング用の袋に灰田くんが持ってきてくれた氷を入れて、患部に当てる。
「応急処置はしましたけど、素人知識なので保健室か病院に──」
「おぉぉ・・・!!」
先輩に声をかけている時、さっきまで黙って見ていた部員達が声を上げる。
何事かと思い、キョロキョロと辺りを見渡す。
な、なに・・・!?
「加藤さん、マジで的確な処置してる・・・!スゲェ・・・!!」
「おいお前!!女子に手当てしてもらうなんてずるいぞ!!」
部員達が私や怪我をした先輩にあーだこーだ言い始めた。
「凄いっすね、伊吹さん。手慣れてますけどこういうの得意なんですか?」
「え?いや・・・練習中とか怪我した時に必要かなって手当ての仕方とか勉強してたからかな。実践したのは今日が初めてだよ」
灰田くんが私の近くに来ながら声をかけてくる。
確かに勉強はしてたけど・・・実践経験なんて全然ない状態だったからこれで合ってるのかも分からないし・・・。
「初めてなんスか!?逆にすごいですね!?」
「い、いや・・・そんなことないって」
「いーや、すごいと思うよ。さすがだね、伊吹ちゃん」
灰田くんに褒められて照れていると、後ろからワシワシと頭を撫でてくる。
この声・・・黒瀬さんだな。
「あ、ありがとうございます・・・」
なんだろう・・・さっき他の人にも褒められたのに、今のが1番嬉しい。
でも・・・なんで?