略奪☆エルダーボーイ
それからというものの、少しだけ悶々とした気持ちでマネージャー業に力を入れる。
なんで悶々としてるのかを考えてみたけど全然分からなかった。
着替えている最中も、なぜ悶々としていたのか考えてしまう。
そもそも、なんで急に悶々とし始めたのかが分からない。
なにかきっかけあったかな・・・。
そんなことを考えながら着替えを済ませる。
更衣室を出ると、壁に寄りかかってスマホをいじっている黒瀬さんが視界に入った。
「あ、伊吹ちゃん。一緒に帰ろ?」
「あ・・・はい」
私が出てきたのと同時に、スマホから視線を上げた黒瀬さんに返事をしながら更衣室の扉を締める。
部活がある日は黒瀬さんと帰るというのが、もう日課になりつつある。
だから、着替えるまで黒瀬さんが待っていたということにすらもう驚かない。
「そういえば、部活中なにか考え事してたね。何か悩み事?」
「え・・・」
黒瀬さんには、私が悶々としていたことに気がついたのだろう。
そのことを言い当てられて少しだけ動揺する。
「・・・いや、別になんでもないです。少しモヤモヤするな〜って思ってただけで」
「モヤモヤ?」
「自分でも理由がわかんなくて・・・それで考えてました」
隠しても仕方がないか・・・そう思い、黒瀬さんに伝える。
人に伝えて分かることもあるだろうし。
「・・・そっか。モヤモヤしてたんだ。てっきり──」
「てっきり?」
「・・・いや、なんでもない。それより、俺は壮行会のセリフ考えないといけなくてさ。なんかいい案ない?」
私を見たあとに少し黙りこみ、話題を逸らす黒瀬さん。
そういえば、大会前に全校集会で選手達の壮行会があるんだっけ・・・。
去年までは他人事みたいに聞いてたからな〜・・・。
「んー・・・基本的に何を言うのが正解なのかすら分からないんで・・・前の先輩が何を言ってたのかとか参考にしてみたらいいんじゃないですか?」
「そうだな〜・・・俺、先輩達が何言ってたかとかあんまり覚えてないから、あてにはできないかもな」
顎に手を当てながら上を向いて考え始める黒瀬さん。
やっぱり黒瀬さんも覚えてないか・・・。
となると、いちから考えなくちゃいけないけど・・・。
「うーん・・・今まで血のにじむような努力をしてきたので、その成果を出せるように全力で戦ってきます・・・的な感じでいいんじゃないですか?」
少し考えた後、思いついた言葉を発してみる。
私が見てきてる限り、かなりしんどそうにしながら練習をしてたし、嘘はついてないはずだ。
まぁ、ちょっと大袈裟な気はするけど・・・。
「あ、いいね。それにするわ。ありがとね、伊吹ちゃん」
「え、そんな簡単に決めていいんですか?」
「いいのいいの」
そんなことを話しているうちに、私の家にたどり着いた。
なんか、いつも以上に早く感じたな。
「ありがとうございました」
「こっちこそ、アイディアありがとね。じゃ、また明日」
バイバイと手を振った後、背中を向けて歩き出す黒瀬さんを見送ったあと、家の中へと入っていった。