略奪☆エルダーボーイ
第6話 負けられない戦い
それから時は過ぎ、地区大会当日。
大会会場に着いて早々にアップを済ませた皆は、試合開始まで指定された場所で待機していた。
「伊吹ちゃん、ドリンク取って」
「あ、はい。・・・もうすぐ試合ですか?」
「うん。前の試合が終わったからね。もうすぐだよ」
黒瀬さんに声をかけられ、近くに置かれていたボトルを差し出す。
差し出したボトルを受け取り、飲みながら私の問いに答えてくれる黒瀬さん。
もうすぐ・・・か。
試合に私は出ないけど・・・少し緊張してきた。
「──皆、今のうちに着替えとアップ取っとけよー」
「ウィーッス」
ボトルを置きながら、周りにいる部員に声をかける黒瀬さん。
着替えってことは──
そう考えているうちに、皆が着替えのために上半身裸になりだした。
やっぱり・・この場で着替えますよね!!
着替えをしている姿が視界に入らないように、部員達に背中を向けて視線を泳がせる。
以前、黒瀬さんに目の前で着替え出すから覚悟しといて、的なこと言われたけど・・・。
いざ目の前でされると・・・。
「伊吹さん、汗ふきシートありますか?アップ取った時に汗かいちゃって」
「!?」
そんなことを考えている最中、上半身裸のまま私の視界に入ってくる灰田くん。
突然の出来事に私は目を丸くした。
「あ、あるよ。ちょっと待ってて。──はい、コレ」
「アザッス」
慌てながらバックの中に入っている汗ふきシートを取り出し灰田くんに渡す。
それを受け取って1枚シートをとった後、残りを私に差し出した。
前も上裸で動き回ってはいたけど、刺激強すぎるからその状態で視界に入ってこないで〜!!
その状況のせいで変に緊張し始め、ドキドキと心臓が高鳴り始める。
「伊吹ちゃん、俺にも汗ふきシートちょーだい」
「!?」
目の前に来た黒瀬さんは、その場で上着を脱いで私の方に近付く黒瀬さん。
なるべく視線を合わせないようにしてたのに、なんで目の前に来るのかな〜!!
「どっ、どうぞ!!好きに使ってください!!」
黒瀬さんの上裸を見ないようにそっぽを向きながら、汗ふきシートを押し付けるようにして渡す。
「・・・、・・・なに?そんなに慌てて。キンチョーしてるの?」
「べっ、別に!!平気です!!」
黒瀬さんは視界にわざと入りながら汗ふきシートで体を拭いている。
それから逃げるように視線を泳がせ、否定をするけど声が裏返ってしまった。
「声、裏返ってるけど?それに、俺とも目合わないし・・・。もしかして、俺達が着替えしてるからかな?」
「そんなこと・・・!!なくは・・・ないですけど・・・」
ここで否定しても黒瀬さんが付け上がるだけだ。
そう考え、素直に答える。
「ふふっ、そっか。じゃあ早く着替えてあげないとね」
愛おしそうに笑いながら、ユニフォームに着替える黒瀬さん。
その表情に、思わずドキッと胸が高鳴った。
「・・・もう・・・」
否定しても肯定しても反応は変わらなかったか。
そう思いながら汗ふきシートをバックの中にしまった。