略奪☆エルダーボーイ

それから少しして、黒瀬さんが試合に戻った。



頬は少し赤くなってるけど、痛みなんて感じさせないほど相手を圧倒し、勝利を収めた。



「うちの勝ちですね。ということなんで、うちのマネージャーに手出さないでください」



「チッ・・・もっと強くボール当てとけばよかったぜ・・・別に構わないぜ、他の子狙うから」



整列した時に交わした会話は、かなり険悪なものだったけど、私の事は諦めてくれたようだった。



あとは決勝を残すのみとなった。



ここで勝てば全国だけど・・・そう簡単には行かない。



うちのチームの苦手とする相手だったらしく、苦戦を強いられ・・・健闘むなしく惜しくも敗北。



全国行きの切符を逃してしまった。



一応、表彰式には参列したけど・・・都大会準優勝という、3年生は喜びたくても喜べない中途半端な賞が送られた。



次の大会が1月だから、3年生は自分の意思で残ったり、引退したりを選べるらしいからこれが高校最後の試合・・・という感じではないが、中にはそういう人もいる。



皆のうつむく背中を見ながら、学校へ帰るために移動しているけど・・・どう声をかけたらいいのか分からない。



「・・・ねぇ、伊吹ちゃん」



「?はい、なんですか?」



いつの間にか私の隣に来ていた黒瀬さんが口を開く。



うつむいていて表情は分からないけど・・・悔しいんだろうな。



「バス・・・俺の隣に座ってくれる?」



「え・・・いいですけど・・・」



「・・・ありがと」



黒瀬さんはそれだけ言うと黙り込んでしまう。



朝は有無を言わさず隣に座らせたのに、確認取るなんて・・・。



余程負けたのが悔しいんだろうな。



荷物を荷台に積み込み、バスの中へと乗り込む。



さっき黒瀬さんに言われた通り、隣に座った。



「・・・・・・」



無言のままな黒瀬さんを横目で見る。



痛々しい頬の赤みと、口元に貼られた絆創膏が目に入る。



痛いの我慢して試合に望んでたのに・・・こんな結果になっちゃったんだもんな・・・。



そう考えている時、黒瀬さんが私の肩にもたれかかってきた。



「・・・黒瀬さん?」



「・・・なんでもない。ちょっとだけ・・・このままで居させて・・・」



「いいですよ、好きにしてください」



黒瀬さんの弱々しい声に庇護欲(ひごよく)が湧き、空いている方の手で黒瀬さんの頭を撫でた。



一瞬、ビクッと体を震わせた黒瀬さんだったけど、私に寄りかかることは辞めず、そのままの体勢でいる。



なんなら、グリグリと肩に頭をすりつけて来ていた。



まるで、私に甘えているみたいに。




ちょっと・・・ほんのちょっとだけ・・・可愛い、なんて思ってしまう。



その後、バスに乗っている間ずっと、黒瀬さんは私に寄りかかって甘えていた。




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