略奪☆エルダーボーイ
第7話 優しさ
大会が終わってからしばらく経ち、部活中──
3年生は半分は1月の大会に参加するため残り、残りの半分は受験の為に引退をした。
黒瀬さんはさも当たり前かのように残ったみたい。
負けた時、あんなに悔しそうにしてたし・・・あのチームにリベンジしたいよね。
そんなことを思いながら、マネージャーの仕事をこなす。
とは言っても、雑事ばかりでこれといって大掛かりなことはしてないんだけど・・・何故か体がだるい。
しかも、お腹が痛いような気もするし・・・。
そんなことを考えながら立ち上がり別の仕事をしようとした時、黒瀬さんがベンチに行って上着を持ちながら私の方へと駆け寄ってくる。
どうしたんだろ?
「伊吹ちゃん」
そう言って、私の腰に上着を巻き付けてくる黒瀬さん。
「・・・どうしたんです──」
「トイレ行ってきな。・・・後ろ、汚れてる」
「!?」
耳元で私にだけ聞こえるようにコソッと教えてくれる。
お腹の痛みと言い・・・多分、アレになってしまったんだろう。
恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
「・・・すみません、行ってきます・・・」
消え入りそうな声でそう呟いてトイレへと駆け込む。
予想はしていたけど、案の定だった。
まぁ、想像してたより汚れてはなかったけど・・・これ、他の人にも気付かれてないかな・・・。
だとしたら、ほんとに消えたい・・・。
でも、急なことだしナプキンがない。
しかも、ズボンも汚れてるし・・・どう足掻いても戻れる状態じゃない。
どうしよう・・・困ったな。
そんなことを考えながらしばらくトイレで頭を抱えている時、コンコン、とノック音が聞こえる。
「あの・・・中にいるの、イブキちゃんかな?」
「っ・・・!?」
急に声をかけられてビクッと肩を震わせる。
どうして急に声なんてかけてきたんだろ・・・。
「・・・はい、そうですけど・・」
「良かった。ズボンとナプキン持ってきたから使って。投げるよ」
「え・・・えっ!?うわ!?」
その言葉と同時に、個室のドアの上からジャージとポーチが降ってくる。
それに驚きながら何とかキャッチした。
「あの・・・なんで・・・?」
「なんでって・・・黒瀬くんに頼まれたの。イブキちゃんが困ってるから持ってるなら渡してくれって」
「黒瀬さんが・・・?」
手にしたジャージとポーチを持ちながら、先輩であろう人の言葉を復唱する。
黒瀬さんが・・・やってくれたの?
「ポーチの中に痛み止めも入ってるから、使って。それじゃ、ちゃんと渡したから私、戻るわね。そのポーチは必要だろうから持ってて。あとで黒瀬くん経由で返してくれればいいから」
「あ、ありがとうございます!」
「お礼なら黒瀬くんに言ってあげな。私は頼まれたから来ただけだもの」
そう言い残すと声が途絶えて足音が遠ざかっていく。
優しいな・・・。
あの先輩も・・・黒瀬さんも・・・。