略奪☆エルダーボーイ
着替えを済ませて更衣室を出ると、黒瀬さんが壁にもたれかかってスマホをいじりながら私のことを待っていた。
「すみません、お待たせしました」
「ううん、気にしないで」
私が声をかけるとパッと視線をスマホから私に向け、スマホをしまう黒瀬さん。
そして、私の隣に並び立って歩き出した。
学校を出て帰路に着くと、提灯が所々に飾られているのに気が付く。
それと共に、屋台の骨組みなどが所狭しと置かれている。
それらはお祭りを彷彿とさせていた。
「黒瀬さん、お祭りあるんですか?」
「うん、そうだよ。土曜と日曜の2日間」
私の中に湧いてきた疑問を投げかけると、肯定の返事が来た。
土曜と日曜か・・・どっちも部活があるけど終わったあとに行けそうではある。
「・・・伊吹ちゃんは誰かと夏祭り行く予定とかある?」
「いえ、特には」
私の方を見つめながら予定を聞いてくる黒瀬さん。
つぐみからは部活があるからかもしれないけど誘われてないし、自分1人でいこうとは考えてない。
だから、今回は行かないつもりでいた。
「そっか・・・良かった・・・。じゃあさ、部活終わったあとに俺と一緒に夏祭り行かない?」
「あ、はい。いいですよ」
どこか安心したように微笑んだあと、黒瀬さんから祭りに誘われる。
予定がある訳でもないし、断る理由もないから黒瀬さんからの提案を受け入れた。
「・・・じゃあ、明日部活終わってから一緒に行こうか」
「!・・・はい」
私の返事を聞いてパァッと顔を明るくし、嬉しそうにしながら微笑む黒瀬さん。
その表情を見てドキッと胸が高鳴ったけど、平静を装って返事をした。
「へへっ・・・楽しみだな」
「そんなに夏祭り好きなんですか?すごく嬉しそうですね」
「・・・好きな子と・・・一緒だから・・・」
ウキウキしている黒瀬さんに声をかけると、ボソッと何かを呟いた。
だけど、丁度その言葉を発した時に車が近くを通り黒瀬さんの小さい呟きがかき消されてしまう。
「え?すみません、車の音で聞こえなくて・・・なんて言ったんですか?」
「あーっ・・・!いや!!なんでもない!!」
慌てたように胸の前で手をブンブンと振って否定する黒瀬さん。
ハァ・・・とため息をついて口元に手を当ててそっぽを向く黒瀬さんの頬は少しだけ赤らんでいるようにも見えた。
「どうしたんですか?なんか、ちょっと顔が赤い気が・・・」
「なっ・・・!?ちょっと暑いだけだからっ・・・!!なんでもないからっ・・・!!ほ、ほら、お家着いたよ!じゃあね!!」
のぞきこむように体を近付けると、目に見えて慌てだす黒瀬さん。
私の家の前に着いた途端に、自分の家へと走り出した。
どうしたんだろ、急に。
いつもの様子と違う黒瀬さんのことを不思議に思いながら、彼の背中を見つめていた。