略奪☆エルダーボーイ
カフェの中に入り、席に座って注文を済ませて頼んだものが運ばれてくる。
灰田くんとこうして向かい合うの中学生以来だな。
「・・・で?伊吹のどんなところが好きだった訳?」
「うぐっ・・・ゲホッゲホッ・・・つぐみさん、直球過ぎない?」
正面に座った彼のことを見つめながら言葉を発すると、飲んでいたドリンクを詰まらせた灰田くん。
そんなに動揺しなくたっていいのに。
「喋ったら楽になれるわよ。きっと」
頬杖をつきながら、灰田くんが話始めるのを待つ。
喋れずに我慢する方がしんどいことを私は知ってるから・・・話を聞いてあげたい。
例え、私にダメージが来たとしても。
「・・・今思うと・・・クールなのにすぐ顔が赤くなったりする所・・・ですかね。あぁいうギャップが好きだったんだと思います」
「へぇ〜・・・ギャップね・・・。まぁ、クールな美人の赤面は破壊力あるわね」
ゆっくりと話し始める灰田くんの言葉を聴きながら、飲み物を飲む。
平静を保っているように見えるけど、内心はズタズタにされている。
美人な人が好きなのかな・・・とか、ギャップがない私にはときめかないってことか・・・なんて考えてしまっているからだ。
「・・・俺、伊吹さんは俺の事好きなんだとばかり思ってました。・・・違ったんですね」
「違わないわよ、伊吹はアンタが好きだった。でも、アンタがモタモタしてるから別に好きな人が出来たのよ」
そう、伊吹は灰田くんが好きだった。
私と同じように・・・すごく。
「え・・・じゃあ俺が早く動いてたら・・・」
「だから言ったじゃない。勝ち目あったって」
「うわぁ〜・・・」
私の発言で顔を覆って項垂れ始める灰田くん。
その姿はとてもツラそうだ。
・・・そんな姿、見たくないよ・・・。
私まで、ツラくなっちゃう。
「・・・伝えずに終わるって、ツラい?」
「・・・・・・かなり」
私の問いかけに振り絞るように答える灰田くん。
そうだよね・・・ツライよね・・・。
私も、ツラいもん。
「ふぅん・・・じゃあ、私も伝えた方がいいかな」
「え?つぐみさん、好きな人いたんですか?」
顔を上げて私の事を見つめてくる灰田くん。
その顔を見て、私は意を決して口を開いた。
「うん、いるよ。10年前からね。しかも、その人は今失恋してダメージ受けてる」
「・・・え」
私の発言を聞いた灰田くんは驚いたように声を上げ、私のことを見つめている。
そうだよね、気付かないよね。
気付かれないようにしてたもん。
「・・・察しのいい“陸くん”なら・・・わかっちゃったよね?」
「あ、あの・・・つぐみさん──」
「あぁ、いいの。答えなくて。返事が欲しい訳でもないから。伝えた方がいいっていったからか、そうしただけ。忘れて」
好きな気持ちを隠すと決めた時から変えていた呼び方を、元に戻しながら陸くんに伝える。
だけど、さっき言ったように返事が欲しい訳じゃない。
伝えられればそれでいい。
例え、今の関係が終わってしまうとしても。
このまま居続けても気まずいだろうと判断した私は、伝票を持って会計をしに行こうとする。
「待って!」
「!!」
立ち上がって歩こうとしていた私の腕を掴み、引き止める陸くん。
その行動に思わずビクッと肩を震わせた。
「・・・嫌っス。ちゃんと、考えさせてください」
「!!・・・その言葉だけで私は満足だから。ありがと」
「!!・・・?」
陸くんの言葉に愛おしさを感じて笑みを浮かべる。
それを見た陸くんは目を丸くしたあと不思議そうにしていたけどそんな彼を置いて会計を済ませた。
勢いで言っちゃったけど・・・多分、陸くんは私を避けない。
それでいて、ちゃんと私の告白を考えてくれる。
私にとってはそれだけで・・・それだけで、充分すぎる。