秘密の信仰
第2章

お庭のベンチで、寝転ぶとき
クリーム色のふわふわとした
ドレスの胸のところが
少しきつく感じた。

「空が青いなあ」
私はベンチに向かって垂れた
モッコウバラの蔓を
手で触りそのまま香りを嗅いだ。
「いいにおい……」
その時に思った。
私明日結婚するんだ……

急すぎるよ、急すぎると
自分の中で毒づいた。

一生懸命エドワード先生と
勉強してきたクラヴィーアも
結局は、いい縁談のための
お飾りでしかなかった。


昨日は泣き出したんだっけ

「バッハの作品は、いまは抒情的に演奏されていますが、僕はこの様に弾くのが彼の時代にそぐうと思うんだ」

エドワード先生は、優しくて色気のある深い声で言った。私は涙を堪えた。


「エドワード先生?」


「どうされたんですか、ミュアさん、お腹痛い?」

「先生、私先生が好き」

「え……」

「わたしを、さらって?」

その時に、母親が
クラヴィーアの部屋にやってきて言った。

「エドワード・ヴィークさん。今日いっぱいで契約は打ち切らせてもらうわ。今夜ミュアの結婚相手が来て、明日嫁ぐんですからね!」

「え……」
唖然とする先生を尻目に、母は、私をクラヴィーア、そしてエドワード先生から引き剥がした。

「お帰りください」

「お母さん、待って」
私は聖書から薔薇の押し花を取り出して、先生に渡した。私はお母さんに対して少し怒っていた。

「ありがとう。あなたはいい生徒でした。こういうことはよくあるから、気にしないで」

「レッスンだけじゃなくお守りもしてくださってありがとうございました。ではお帰りください、忙しいのでね」

「はい、ではおいとまします」


エドワード先生が好きだった。
先生は私の7つ歳上で10歳の頃から
うちに来てくれていて、
いろんな遊びを教えてくれて
楽譜の読み方も弾き方も教えてくれた。
たくさんの面白い話もしてくれた。
彼への気持ちが、兄へ向ける様な感情でないと気がついたのは、14歳の時だった。





「ミュア!さっさと着替えなさい」
モッコウバラの向こう側から
母がやってきて、私に大きい声で言った。

「お嬢様。今夜は旦那様となる方と会うことになりますから、きちんとめかしこまなければなりませんね」と、ばあや。

「ばあや、服がまたきつくなった」

「まあ!お菓子の食べ過ぎですか?大丈夫ですよ!コルセットで縛ります」

「ウエストじゃないー」私は甘えた声でばあやにごねた。

「あらま!」
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