召喚聖女は話が早い

プロローグ 親の顔より見た光景

 会社からの帰り道、急に意識が遠退いて。と、思ったら見覚えのない部屋で気が付いて。
 いつの間にか寝転がっていて。天井との間に、魔法陣が浮いているのが見えて。
 目だけ動かして辺りを見れば、どう見ても元いた日本じゃなくて。何だか中世ヨーロッパのお屋敷みたいなところで。

「お目覚めになられましたか?」

 極めつけが、コレ。どう見ても日本人じゃない人物が、流暢な日本語で話しかけて来るって展開。

「異世界召喚だわー……」

 私はこちらを覗き込む青い髪をした青年――二十代前半くらい――に、思わず返事になっていない返事をした。

「えっ、状況を理解しておいでで?」
「いえ、まったく」

 琥珀色の目を丸くした青年が、寝たままな私の傍らに片膝をつく。その拍子に彼の左分けな前髪がサラリと揺れた。横の髪の長さからいって、(まと)めているだろう後ろ髪は肩より少し長そうだ。
 全体的な雰囲気が、三つ年下の後輩くんに似ている。歳も多分、同じくらい。あくまで雰囲気だけれど。何せ目の前の人物は、比べものにならないくらいのイケメンだ。
 私は上体を起こし、彼とは違い残念なほどボサボサな黒髪を手櫛で梳いた。出勤前にこの猫っ毛と長期戦なんてごめんなので、極力短くしてある。社畜で毎日帰りが遅いので、風呂上がりにタオルドライで済ませられる点もいい。
 服装は、通勤用に同じデザインで三着買ったワンピース。ズボッと被れば着替えが完了するのがいい。パンプスは(かかと)が低くて広い奴。グレーチングにヒールが(はま)まって以来、細い奴は履かないことにした。
 この着の身着のまま状態で転移という状況も、異世界召喚あるあると言えよう。

「おそらく何らかの問題が国もしくは領地に発生していて。それを解決するためには、異世界人に何かしらやってもらうしかなくて。よって、私が喚ばれただろうくらいしかわかりません」
「? やはり状況を理解しておいでで?」
「いえ、まったく。今話したのは、あくまで予想です」
「それが予想なんですか⁉」
「あと、私に期待されるその何かしらはやるつもりです。話を進めて下さい」
「何と素晴らしい聖女様だ!」
「なるほど、私は『聖女』ですか」

 私のこれは、聖女召喚なパターン……と。過去、大量に読んだ異世界召喚もののライトノベルや漫画と、今の状況を照らし合わせる。

(……うん、やっぱりああだこうだしながら結局は、聖女の役目を果たすことになるのが大半だった)

 それなら渋っている暇があれば、やった方が早い。やはりやると前もって言っておいた方が、円滑に進むだろう。
 おそらくそう簡単ではない方法で異世界召喚しないといけないくらい危機的状況なら、当然そんな世界に来てしまった私の身だって安全ではない。とっとと解決する方が、自分のためにもなる。
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