召喚聖女は話が早い

重要なのは「決める」こと

 流れ作業に費やした()(とう)の数日から二週間後。

「サキ! 今までにない早さで浄化が進んでいますよ!」

 今日は追加の水を祝福する予定だった私は、作業場へ向かう途中の廊下、後ろからオルセイに呼び止められた。
 遠くから、それも挨拶もせずに本題に入るとは。ここ数日ではそんなことなど一度もなかった、彼らしからぬ行動だ。それほど嬉しかったのだろう、弾んだ声からもそれがわかる。
 足を止めた私にオルセイが追い付き、並んだところで一緒に歩き出す。

「この辺り一帯が安全になったことで、これまで手付かずだった地域に第二騎士団を派遣することになりました」

 歩きながら彼と話すのは、もう自然な流れだった。

「一般兵ではなく騎士団をということは、単に人手が足りなくて手付かずというわけではなさそうですね」
「はい。特に瘴気が濃いとされる地域への派遣です。状況がわからないため、危険な任務に対応できる第二騎士団をという話になりました。それでサキに相談したいのですが、俺の執務室に寄ってもらっていいですか? 恥ずかしながら、前例がない計画を前にするといつも迷ってしまって」
「勿論、聞きますよ」
「ありがとうございます」

 私たちは、作業場がある廊下の一本手前を右に曲がった。オルセイの執務室へは何度か訪れているので、もう私にも場所がわかっている。

「お邪魔します」

 部屋へ入り、さらに左手にある書斎へ向かうのも、もはやいつものパターンだった。部屋の主であるオルセイも、もうわざわざ「こちらへ」など言わずスタスタ先を行く。そんな彼の背を見ながら、私も勧められるのを待たずに応接テーブルの席に着いた。
 何かを手にして戻ってきたオルセイが、私の対面の席に着く。

「相談というのは……実は、騎士団の行程を決めかねていまして」

 オルセイが手にしていた何か――地図をテーブルの上に広げた。次いで彼が、地図上の一点に女性の横顔が彫られた銀貨を一枚置く。そこが目的地ということなのだろう。現在地は王都なので、ここから西へ結構行った位置になる。

「この地はトトリスといって、かつて隣国との国境の町だったと言われています。先代の聖女様はここへは出向いておらず、二百年間、手付かずになっている土地です」

 二人で地図を覗き込む。私は、オルセイが指で街道をなぞるのを目で追った。

「北回りで行くと、距離的には短くまた瘴気も少なめです。南回りは逆に相当な濃度の瘴気だと報告が上がっています」

 そう言ったオルセイがまた別の街道をなぞり、私はそれも目で追った。
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