召喚聖女は話が早い
立っているものは王族でも使え
「まずはサキに滞在いただく部屋に案内いたします。詳しい話はそれからということで」
オルセイが言って、身振りでメイドっぽい年嵩の女性を一人近くに呼ぶ。
「勿論、部屋についてもご要望があれば替えることが可能ですので」
さらにオルセイがそう言って、その横で女性が私に頭を下げる。
これはおそらく、今からこの女性が部屋に案内してくれるのだろう。そう思った直後、やはり女性が「ご案内いたします」と歩き出そうとして、私は「待って下さい」と彼女を引き留めた。
「オルセイは私が部屋へ行っている間は、どうしていますか?」
「ご一緒します。ですので、部屋に足りない物があればすぐに言って下さい」
オルセイの返答に、私は喜んだ。勿論、彼が言う部屋についての要望を聞いて欲しかったわけではない。部屋は替えることまで想定するほど配慮されているのだ、心配は要らない。
「それなら彼女ではなく、オルセイが案内して下さい。それなら道すがら説明を聞けます」
「えっ」
私の提案にそう声を上げたのは、オルセイではなく女性の方だった。思わずそちらを見ると、「し、失礼いたしました」と彼女に先程よりも深く頭を下げられる。
しまった。彼女に非があると勘違いさせてしまっただろうか。そう考えて、しかし彼女の様子に「おや?」と思う。女性は私に頭を下げながらも、チラチラと明らかにオルセイの方を気にしていた。
そんな彼女の態度から、もしかしてとその胸の内を推測する。私は改めてオルセイを見た。今度は容姿ではなく、彼の衣服を中心に。
メイドっぽい女性のお仕着せより、格段に上質そうな光沢のある黒い布。上下が対になっていて、袖にも裾にも美しい金の刺繍が施されている……。
「――オルセイは身分が高いですか?」
私はオルセイに、直球で尋ねた。
「……一応、そうなりますね」
オルセイが困ったような顔で笑って答える。
まあ、そうでしょうね。私も聞くまでもないなと思いながら聞きましたし。
「俺は国王陛下の甥にあたるので……その関係で。俺の身分がという言い方をされると微妙ですが」
「国王陛下の甥……」
私は無意識で、オルセイの台詞を繰り返していた。――意識の方では「いやそれ、微妙じゃなくて普通に身分高いですけど」と思いながら。
「本当に遠慮なく、何でも申し付けてもらって構いませんので」
オルセイが若干早口でそう続ける。早くこの話題から離れたいと言わんばかりに。
その焦ってすら見えるオルセイの困りように、私は謙遜からではなさそうだと推断した。
彼は自身の身分に対し、身に余ると思っているのかもしれない。
「勿論、そうさせてもらうつもりです」
それならそんな彼に合わせた方がいいか。私はそう結論を出し、返答した。
押し問答を想定していたのだろう、オルセイが呆気に取られた顔をする。
「丁度、それなら「できる限り」の範囲に期待できそうだと思ったところですから。そうしてもらわないと」
戯けて言えば、まだ呆然としていた彼と見つめ合う形になる。
そのまま数秒。その後、ふはっと吹き出した彼の笑いが止まるまでの十数秒は、私だけが彼を見ていた。
「そうですね。期待に応えられるよう頑張ります。部屋への案内も含めて」
オルセイが言って、女性を下がらせる。
次いで彼は、柔らかに私に微笑んでみせた。
「では、ご案内いたします」
オルセイが言って、身振りでメイドっぽい年嵩の女性を一人近くに呼ぶ。
「勿論、部屋についてもご要望があれば替えることが可能ですので」
さらにオルセイがそう言って、その横で女性が私に頭を下げる。
これはおそらく、今からこの女性が部屋に案内してくれるのだろう。そう思った直後、やはり女性が「ご案内いたします」と歩き出そうとして、私は「待って下さい」と彼女を引き留めた。
「オルセイは私が部屋へ行っている間は、どうしていますか?」
「ご一緒します。ですので、部屋に足りない物があればすぐに言って下さい」
オルセイの返答に、私は喜んだ。勿論、彼が言う部屋についての要望を聞いて欲しかったわけではない。部屋は替えることまで想定するほど配慮されているのだ、心配は要らない。
「それなら彼女ではなく、オルセイが案内して下さい。それなら道すがら説明を聞けます」
「えっ」
私の提案にそう声を上げたのは、オルセイではなく女性の方だった。思わずそちらを見ると、「し、失礼いたしました」と彼女に先程よりも深く頭を下げられる。
しまった。彼女に非があると勘違いさせてしまっただろうか。そう考えて、しかし彼女の様子に「おや?」と思う。女性は私に頭を下げながらも、チラチラと明らかにオルセイの方を気にしていた。
そんな彼女の態度から、もしかしてとその胸の内を推測する。私は改めてオルセイを見た。今度は容姿ではなく、彼の衣服を中心に。
メイドっぽい女性のお仕着せより、格段に上質そうな光沢のある黒い布。上下が対になっていて、袖にも裾にも美しい金の刺繍が施されている……。
「――オルセイは身分が高いですか?」
私はオルセイに、直球で尋ねた。
「……一応、そうなりますね」
オルセイが困ったような顔で笑って答える。
まあ、そうでしょうね。私も聞くまでもないなと思いながら聞きましたし。
「俺は国王陛下の甥にあたるので……その関係で。俺の身分がという言い方をされると微妙ですが」
「国王陛下の甥……」
私は無意識で、オルセイの台詞を繰り返していた。――意識の方では「いやそれ、微妙じゃなくて普通に身分高いですけど」と思いながら。
「本当に遠慮なく、何でも申し付けてもらって構いませんので」
オルセイが若干早口でそう続ける。早くこの話題から離れたいと言わんばかりに。
その焦ってすら見えるオルセイの困りように、私は謙遜からではなさそうだと推断した。
彼は自身の身分に対し、身に余ると思っているのかもしれない。
「勿論、そうさせてもらうつもりです」
それならそんな彼に合わせた方がいいか。私はそう結論を出し、返答した。
押し問答を想定していたのだろう、オルセイが呆気に取られた顔をする。
「丁度、それなら「できる限り」の範囲に期待できそうだと思ったところですから。そうしてもらわないと」
戯けて言えば、まだ呆然としていた彼と見つめ合う形になる。
そのまま数秒。その後、ふはっと吹き出した彼の笑いが止まるまでの十数秒は、私だけが彼を見ていた。
「そうですね。期待に応えられるよう頑張ります。部屋への案内も含めて」
オルセイが言って、女性を下がらせる。
次いで彼は、柔らかに私に微笑んでみせた。
「では、ご案内いたします」