召喚聖女は話が早い

一人の勇者より百人の一般人

「承知しました。では早速、神殿に向かいましょう。俺もサキなら、すぐにでも神殿に祀られている聖剣に祝福をかけることが可能だと思います。予定よりかなり早く、勇者選定に入れそうですね」
「聖剣……勇者選定……」
「そちらについても、先程同様歩きながらの説明で構いませんか?」

 私に感化されてきたらしいオルセイが、言いながら席を立つ。
 その変化は喜ばしいが、私は彼の口にした『聖剣』と『勇者』という単語に対し、別のことを考えていた。
 私もオルセイも、現状の聖女の浄化ではじり貧ということで意見が一致している。主観的にも客観的にもそう見えるなら、根本的な見直しを図らないといけない。

「……今使った測定器は、祝福の力に反応して数値が出ていたわけですよね?」
「ええ、そうです。サキの力は素晴らしいものでした」
「だとしたら、測定器にも祝福の力が流れているわけで。つまり聖剣でなくても、普通の武器にでも浄化の力は付与できることになりませんか?」
「え?」
「オルセイは今、何か持っていませんか? 護身用の短剣とか」
「ありますが……」

 私も席を立ち、懐をまさぐるオルセイの傍に行く。
 オルセイは私の仮説に戸惑う様子を見せながらも、手にした短剣を私の前に差し出した。
 物は試し。その短剣に手で触れる。測定器に触れたときに見えた光の粒が流れるイメージを、今回は意図的に思い浮かべてみた。

「⁉ 光っています!」

 オルセイが驚きの声を上げ、それから彼は「もしや」と言いながら、空いていた手で首に掛けていた装飾品――カメオを取り外した。
 カメオはフラワーモチーフで、細部にまでこだわりが見られる素人目に見ても高級そうな一品だ。しかし、それには気品溢れるデザインに似つかわしくない黒いもやが、うっすらとではあるが掛かっていた。

(この黒いもやって、もしかして……?)

 私がカメオに注目する中、オルセイが仄かに光る短剣をそれに近付ける。
 すると――

「! 瘴気が消えた!」

 言ってオルセイが、私の方を見る。
 私はそんな彼に、頷いてみせた。

「やっぱりこれが瘴気なんですね。持ち歩いていて平気なんですか?」
「僅かでしたので、少し疲れやすくなるだけでした。ただ通常、瘴気が付着したものは廃棄となります。俺は母の形見をどうしても捨てられず……見つかるととやかく言われるのはわかりきっているため、持ち歩いていました」

 オルセイが綺麗な白の彫刻に戻ったカメオに、再び目を落とす。

「聖剣以外にも浄化力は付与できるという、貴女の仮説は正しかったようです」

 そしてまだ呆然といった感じで彼は言い、しかしすぐに「ですが」と続けた。
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