召喚聖女は話が早い
 『祝福』と聞けば神秘的で厳かな印象だが、実際のところは肉体労働に他ならない。
 ごきゅごきゅごきゅ……ガッ
 私は二十本目の栄養ドリンク――もといポーションを飲み終え、空き瓶を作業机の上に置いた。やけくそ気味に「ばっちこーい!」とでも言いたい気分である。
 オルセイが整えてくれた手筈は、素晴らしいものだった。
 城内にこんな場所もあったのかと思うような、飾り気のない部屋。大きな作業机に、座り心地の良い椅子。私の左に立つ兵士さんが剣や槍などの武器を机に載せ、私が浄化力を付与。向かいの席に座ったオルセイが、付与の状態を鑑定で確認。私の右に立つ兵士さんが、完成品を箱詰め。合間合間に、『祝福』で消費する魔力を回復するためのポーションをメイドさんが差し入れ……環境も工程も申し分ない。
 申し分なさ過ぎて、ここ数時間お手洗いにしか席を立っていない状態である。

(この慣れ親しんだ、やってもやっても終わらない感……!)

 私はまだ数時間しか経っていないがもう懐かしい、かつての職場を思い出していた。
 二十本ごとに木箱に詰められた完成品の武器はすぐに配られ、最初の方に行き渡った隊は既に魔物討伐に出発したらしい。ずっと私の側にいるはずのオルセイなのに、私の要望が的確に伝わっている。伝達力の高い上司……貴重な人材だ。

「水の容れ物を樽から銀製の箱に替えてみました。祝福の伝導率が上がると思います」
「いい案ですね。ありがとうございます」

 さらに率先して効率化を図ってくれる。本当に貴重な人材だ。
 武器の方がキリの良い本数に達したのか、作業机に出されるものが水の入った容れ物に変わる。それをひたすら、ここまで武器に施していたようにもうひたすらに祝福を掛けて行く。その前でオルセイが、やはりひたすらに鑑定して行く。王族がこんな流れ作業に参加しているという居心地の悪さがそこかしこから伝わってくるが、慣れろとまでは言わない耐えて欲しい。

「オルセイ。思ったんですが短剣で瘴気を払えるのなら、果樹園や農場で祝福が掛かった道具を日常的に使用してもらってはどうでしょうか?」
「いいですね、試してみましょう。――そこの者、(せん)(てい)ばさみをここへ」

 即決で同意したオルセイが、丁度彼と私に茶を運んで来たメイドさんを呼び止める。
 瞬間、これまたそこかしこからまだこれを続けるのかという視線が飛んできた。耐えるのも無理なら諦めて欲しい。そしてもはや何度目かわからないけれど……シュレット王国の皆さん、ごめんなさい。
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