一匹オオカミくんと、今日も、屋上で
「ごめん、後ついてきちゃった……」
えへへと笑って見せると、宝生くんは「それは分かってた」と細い目を向けた。
「帰って」とは言われていない。
宝生くんに近づくために一歩一歩屋上に続く階段を上がる。そして、旧校舎の屋上へと到着した。目の先には旧校舎とは思えないほどにゴミ一つ落ちていない綺麗な屋上が広がっていた。
言葉が出ない私に、宝生くんは「これ、座れば」と、私に折り畳みの座椅子を差し出した。見たところこのイスは一脚しかなく、私が座ってしまうと宝生くんが座るイスがない。
「私は大丈夫、立ってる!」
「これ、俺が持ってきたヤツだから得体の知れないイスじゃないし、そんなに不安にならなくてもいいけど」
「それなら尚更宝生くんが座ってよ。私は地べたに座るでも全然大丈夫、屋上綺麗だし」
「いくら屋上が綺麗でも女子を地べたに座らせるのは抵抗あるだろ、いいから座れって」
強制的に宝生くんが持参したイスに座らせられた。
私の隣に座り込む宝生くんは教室にいる宝生くんとはまるで別人で、嫌な顔一つせずに隣にいてくれている。
何故だろう、ものすごく安心する。